のんさんの後ろの壁が好き
「能年玲奈さん」改め「のんさん」のラインモバイルのCMがとっても好きです。
キリンジのエイリアンズが美しい。
のんさんが美しい。
背景の壁が美しい。
全てがしっくり来てて本当に綺麗。
以前絵とか描く前、美術の仕事をやっていました。主にCMなどの広告が中心で。勿論デザイナーさんとかカッチョイイ物ではなく「塗り屋」と「塗装屋」とか呼ばれるセット全般の塗りの仕上げをする仕事です。(塗り屋も僕的には超カッチョイイですけどね)
小道具などから壁面の左官、塗装、セット自体の汚しなどなど…
作ったセットを撮影できる状態に仕上げる仕事です。
ミニチュアなどや、小規模な物はなるべく1人や1〜2人程呼んでミニ親方で仕事を取り、大きいものは別の塗装屋さんの傘下に入って作業をするといういわゆる風来坊。
元々がお絵かきが専門だったので、会社に勤めてたとか有名どころの下についてたとかではありません。
なので単純に左官のスピードや塗装のスピードなどはちゃんと下積みをやってきた方達には叶うわけもありません。
それでもそれなりの報酬で極極好き者な一部の人達に重宝されてた(と、思う…多分…)のは「プロの職人さんとアプローチが全然違う」からだと思います。適材適所で上手く使ってもらえれば結構役に立ってたみたいです。
生粋の職人さんて勿論凄いのですが、慣れすぎてるあまり職人さんの落とし穴って少なからずあったりもします。
少し違うことを要求されると途端に作業レベルが下がったり、デザイナーさんや監督さんの頭のイメージを全く理解しようとしないで、単に作業として突っ走る傾向がある方も多い気がします。(勿論そんな事もない素晴らしい方も沢山いらっしゃいます!)
自分の中に確固たる作業手順がパターン化され過ぎてる弊害です。
案外それでもどうにかなっちゃうんですよね。
仕事全体のレベルの到達点がぴったりきてればそれで十分過ぎるほど十分ですし。
仕事は仕事。さっさと終わらせて一杯ひっかけたいのも全くもって正し過ぎます。
でも、そんな仕上げでは満足できないデザイナーさんとか監督さんもやっぱり居ます。
そんな方々にとってみると、あまり見たことのない方法や訳の分からん工程で思ってた以上の仕上がりを見るのはやはり楽しいらしいのです。
基本1人で全てをこなして行く作家の作業とは違い、映像の仕事は凄まじい人数が一つの作品に関わっています。CMなんかは、たった数十秒だけの為に。
仕事である以上クライアントが納得行くことが大前提だと思うのですが、やはり実際に作る現場の人間たちだってハイハイ言いなりだけで作るのではなく、自分らのやりたい事や試したい技術。新しい表現、色んな希望、野望があるはずです。
またそれが不規則で過酷な仕事を続くけて行くモチベーションにもなっているはずです。末端の1職人である僕だってそうでした。
ぼくが塗りの仕事をやり始めた10年以上前って、ムービーと呼ばれる映像の仕事よりグラフィックと呼ばれる紙媒体中心の静止画の仕事が多かったんです。
最近の物とは比べ物にならないほど凝った仕事がとても多くて、静止画なので完全に写真で絵を作っていく感じ。あーでもないこーでもないとたった1ショットの為に。
ラインモバイルのCMを見てるとその頃のグラフィックのシンプルでストイックな緊張感とレベルの高い仕事を、さにげなくサラッと見せてる美しさを思いだします。少し懐しい郷愁も感じたりして。
あのCMが流れると部屋の空気がカツッと変わります。
元、壁を作ってた人から見ると、あのシンプルに見えるな壁は大変くせ者で、打ちっ放し風なのに下の層から壁の素材と関係無い色味がチラチラ覗いてます。
それも塗装の痕跡が見えるという具体的な設定が無さそうな抽象的な曖昧さ。(あるのかもしれないですが)それが色みの少ない画面を冷たさから救っていて美しいんです。
左官のテクスチャーも残すべき所に残してあるので、確信的な配置です。
パネルの継ぎ目?も良い配置。絶対にモニター見ながら指示を受けて強弱も作りこんでます。(それをやってなかったらそれはそれで素晴らしい!)
うち枝なり、葉っぱの影なり右上あたりに入れたり、木漏れ日なんか入れちゃったりが全く無いところもストイックで美しい。照明も全体が淡い光で、少しきつめの照明は右腕の一部のみという抑制が効いてます。
キリンジの言わずと知れた名曲「エイリアンズ」もぴったりハマってますし、久々に見たのんさんの性別不詳な色気には驚きました。こう言う成長の仕方は珍しいですね。
よくぞ全国区に使ったという企業の反骨心も大好きです。
静かだけど丁寧でレベルの高い仕事から携わった方々のたしかな熱量が伝わります。
あまちゃんも観てないし、ラインとかも知らないし、ラインモバイルとかも全く興味無いんですけど、このCMは本気で素晴らしいなーと感動してたりする次第です。
なもんで今更キリンジのベストとか買ったりして…若干応援の鉾先間違えてるような気もしますが。
なんだかチラッ見た第2弾も雰囲気良さそうだし今後も楽しみにしてます。
愛情もないのに雑に猫や動物入れてお茶を濁してる広告はいいかげん見たくないなぁ。